【吸血とスペーシーな空間との共振】
プロデューサー/運営実行委員会リーダー 中山広之

「吸血」というタイトルを聞くと、
一見鋭い牙をむき出したヴァンパイヤが登場して人間を襲う「吸血鬼ドラキュラ」のような
ホラー映画を想起してしまいがちですが、それは見事に私を裏切ってくれました。

全編薄暗い闇のような空間。

そこから立ち上がるドロドロとした狼煙は、東京の片隅から映画の新たな語り口に
無謀にも挑もうとしている映像作家・吉本直紀の心髄を思わせずにはいられません。
なぜなら、私はこの作品に以下のような新たな試みを見出すことができたからです。

・ デジタルビデオによる撮影とノンリニア編集によるデジタル技術をとことんまで駆使して、
  既存のデジタル映画を超える画面を作り出していること。

・ サイレントに近いギリギリの状態まで音を削ぎ落とすことで映画が誕生した頃の
  原初的姿にまで還元して、映画と音との関係を今一度見つめ直していること。

吉本の映画諸作品を古くから見ている私にとってこの最新作「吸血」は、吉本作品の多くに
共通する主題である 「形而下の空間」と「宇宙への憧憬や畏怖」といったものを、
最も鮮明かつ緊密に描き出した作品であります。
吸血鬼という非現実の姿を通して地上(私たち人間)と宇宙(目には見えない世界)との繋がりを
見つけ出そうと格闘している姿勢には、芸術を志向する者として敬意を抱かずにはいられません。
そして、ひいてはそれが映画の可能性を提示しているようにも思えてなりません。
21世紀のインディペンデント・デジタル・サイレントシネマがここに誕生しました。