米映画批評サイト Film Smash に吸血−Sanguivorous が掲載!

日本語訳
ニューヨークのチェルシー街にある大きなL字型のアートギャラリーへ来たと想像してほしい。
ギャラリーの中心部の壁は真っ白、何も飾られていない。やがてL字を折れると暗闇の壁にある奇妙な
映画が投影されている。そこにはよろめいて立直れないほど酷い状態の日本人女性(柿澤亜友美)が
映っている。彼女の視界はぼやけ、奇怪な幻が見える。この娘は病気?酷い熱に侵されているの?
いや、彼女は、ゆっくりとヴァンパイアへ変身しているのだ。彼女のボーイフレンドは気をつけないと血に
餓えた彼女に襲われてしまう。変身過程から襲われる放心状態は彼女が闇の隧道を通り抜けるころ消える。
そこに誰かいるの?そこには長い爪を生やした半裸の老ヴァンパイアが立っている。今日は最悪な日に
間違いない。いや、もしかすると彼女は不死身の命を手に入れたのかもしれない、血を永久に吸い続け
さえすれば。
脚本・監督は日本のフィルムメイカー吉本直紀/直聞、出演はアヴァンギャルド暗黒舞踏の室伏鴻。
「吸血」はIMAXシアターで鑑賞するような一般映画ではない。ムルナウの「ノスフェラトゥ」とガイ・マディン、
そして塚本信也を混ぜ合わせたようなアートフィルムだ。アートギャラリーや美術館、またはヴァンパイア
クラブイベント、ライヴオーケストラ(既に上演済み)などがお似合いの若干の台詞が入ったサイレント映画
(又はビデオエクスペリメント)といえるだろう。本作を鑑賞後この監督の商業映画での将来性は難しいと思った。
なぜなら彼は故意に反商業性を好んでいるようなのだ。しかし彼が良い映画作家であることは確かだ。
低予算にも拘らず「吸血」は至極創造的な映画表現がなされている。スタイリッシュな光と影。伝統的な
特殊効果と偉大なロングショットとクロースアップ。筆者は吉本監督がアートフィルムから一般作に挑んだら
大変興深いと思う。だが通常のホラー映画を観たい観客の期待には「吸血」は応えることなできないだろう。

近年の馬鹿げたヴァンパイア映画の大量生産の中で、「吸血」は新鮮で血に餓えた存在だ。筆者にとって
実験精神をいつでも駆り立てられる作品ではないのだが、この監督は人が吸血鬼に変身するまでの熱病に
侵されたような描写をこれまでのヴァンパイア映画にはなかった要素で描いている。

筆者はこの作品をお薦めします・・アートギャラリーで赤ワインとブルーチーズを味わいながら

本作を送って頂いたタイドポイントピクチャーズの伊地知氏に感謝。